言葉が出てこない哀しみ

学ぶ

 海外旅行に行ったとき、外国人と話すとき。少ない語彙で会話するのは大きなストレスを感じますね。「えーっと、何て言うんだっけ」と脳みそを振り絞って考えるあの感じ。

 小学生の時、私はアメリカ人家庭にホームステイしていました。当時はまだ語彙も少なくとても苦労しました。ある時、失敗してして「恥ずかしい」と言いたい時、「sad(悲しい)」という単語を使わざるを得ないことがありました。本当は「embarrassed」や「asshamed」などを使うべきなのに、知らないのでそれしか言えないのがなんとも辛かったのです。

 そして「sad」を使っていると、なんだか本当に悲しい気持ちになってきました。気持ちが言葉に引きずられるんですね。私の場合はまだ日本語で自分の気持ち(「恥ずかしい」)を理解していたからいいのです。でもこれが母語でも自分の考えや気持ちを表現できなかったとしたらどうでしょう?

 最近「キレる」子どもが多いですね。これ、ひょっとしてあらゆるネガティブな感情を「ムカつく」という1単語ですませてしまっているからじゃないでしょうか。本当は「イライラする(irritated)」「落ち込んでいる(feel blue)」「気に障る(annoyed)」「悩む(agonize)」「苦しむ(suffer)」「沈む(sink)」「動揺する(upset)」……などいろんな感情があるはずなのに「怒る(angry)」しか知らない状態。

 ほんのささいな事でもいきなり「ムカつく」と自分の心を表現してしまうので、実際に「キレて」しまう。自分の心の状態を頭で理解することができないのは実に不幸です。本当は「ムカついて」ないのに「ムカつく」と口にだすことによって、感情が言葉に振り回されるのです。

 「あー、ホントは違うのにぃ」と思いながら会話するのは結構イライラしますよね。みなさんも言葉が分からない海外のレストランで上手く注文することができずに「本当は別のものが食べたかったのになあ」と食事をした経験はありませんか? ドンピシャの言葉が出てこないのは思ったよりも精神に負担をかけます。外国語でもそうなのですから、母語の場合はさらに大きなストレスになるのではないでしょうか。

 「母語も第二外国語もどちらも子どものレベルの大人」は哀しい。私は一連のコラムで何度も「まずは母語をしっかり話せるようにし、幅広い知識を身につけること」を主張しています。以前書いた臨界期(りんかいき)の問題もあるので早期バイリンガル教育については賛否両論の意見がありますが、まだ母語が固まっていない時期に外国語を詰め込み、両言語とも低いレベルにとどまってしまう危険性も十分に考慮しなくてはなりません。



【追記】独立行政法人メディア教育開発センターの調査によると、私大生の19%の語彙力が中学生なみというショッキングな結果がでたそうです。大学生にもなって中学生レベルの日本語力とは嘆かわしい限りです。ひょっとしてこのブログも意味が分からないという人もいるんでしょうか。不安になってきた……。

言語についての関連記事

消えゆく言葉
語族・語派・孤立言語
英語の習得には何時間かかるの?
学校の英語の授業は何時間?
16カ国語マスターの超人・ロンブ・カトー
世界を股にかける語学超人・梅棹忠夫
発掘のためならエンヤコラ・シュリーマン
「これ」さえあれば語学の達人
英検1級とは何か?
「日常会話ぐらい」とは何事ぞ
「日常会話ぐらい」とは何事ぞ(2)
言葉が違えば、思考も違う
帰国子女はつらいよ
外国語ペラペラの落とし穴
言葉が出てこない哀しみ
外国語とクルマの共通点
言語コラムまとめ

今日のサイト

「米日系ストアで日本オタクと仲良くなろう」

 そうだよ。みんなオタクになろうよ。『Death Note』好きのリチャード君とは友達になれそう。日本語の勉強頑張れ!

2005年 6月 13日(月)

広告