白木屋火災におけるノーパンの悲劇は……?

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 昭和7年(1932)の12月、日本橋の白木屋百貨店で起こった火災。慌てて逃げ出した和服の女店員は窓から脱出を試みた。しかし当時の女性は下着をつけていなかったため、野次馬に陰部を見られまいと裾を押さえた女店員たちは、真っ逆さまに転落死。これが日本でズロース(パンツのような下着)が広まったきっかけである……。

 日本史の先生なんかが授業中に教えてくれたりしますよね。でもウソウソ。これ一般に信じられていますが、実は都市伝説なんです。『関係者以外立ち読み禁止』(鹿島茂)の『白木屋ズロース伝説について』というエッセイにはこの話が信じられるようになった経緯が書かれています。

 著者の鹿島氏が対談した井上章一氏は、白木屋火災について当時の新聞報道を丹念に調べ上げました。その結果、実際には羞恥心など意識せずに、脱出に成功した女店員がほとんどであったことをつきとめます。

 朝日新聞の記事で白木屋の山田専務は「裾の乱れを直そうとしてバランスを崩して2,3階から落ちた女店員がいた」と述べています。「転落死」した人はいないようなのです。では一体どこからこの話が出たのでしょう。都新聞の記事がどうもその犯人らしいんですよ。

 この記事は、惨死した女店員はズロースをはいていなかったため、裾がまくれてしまい、「『アッ』というて身づくろいする途端、両手がお留守となって、命綱ともいうべきものを放し、惨死したことを聞きました」と伝え、「独りデパートの女店員に限らずビルディングに勤める女性がズロースを穿くということは、極めて必要なことと思います」と結んでいる。(『関係者以外立ち読み禁止』(鹿島茂))

 この事件後にズロースが広まったということもなく、女子のみなさんがパンツをはき始めるのはもっと後のこと。つまり「ノーパンのため白木屋火災で亡くなった女店員」も「火災後のズロースの普及」もねつ造記事によって広まった真っ赤なウソなのです。

 またフランス文学者である鹿島氏は、パリにも全く同じ都市伝説があるとも述べています。第一次大戦のころボン・マルシェで火事があったとき、下着をはいていない女店員が、下から覗かれるのを気にして逃げ遅れて焼け死んだというもの。これも歴史的にはつじつまが合わないのだとか。

 日本とフランスだけでなくひょっとしたら中国版ズロース伝説、ドイツ版ズロース伝説なんかもあるのかもしれません。

 この手のトリビアの特徴としては、「なるほどね、やっぱりね」と思わせるものがあるんですよね。いかにもできすぎている。だから思わず人に話したくなって、広まっていく。

 逆に言うと、あまりにも都合の良すぎる話は、都市伝説であることを疑った方がいいのかもしれませんね。


関係者以外立ち読み禁止
鹿島茂
■「宦官の恋愛」「フランス貴族の不倫」「巨乳vs小乳」などちょっとエッチな話題もおしゃれに料理している。『オール読物』の連載をまとめたもの。

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2005年 10月 13日(木)

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